新城師匠かく語りき・・・サバニ対する師匠の考え




■サバニの船型
側面形は舟の前後が跳ね上がった独特な形状と中央部分で外側に開いた低い舷側を特徴としている。
また、平面形は細長比6前後の細長いスマートな船型を特徴とする。
さらに水線での形状を見ると、舳先で分けられた流線は船体のに両舷に沿って流線形に進み最大幅から後端へと狭まりながら艫の三角下端付近で再び閉じられ水面に舟の通った形跡を残しにくい、言い換えれば渦の出来にくい抵抗の少ない船型であることが想像できる。
これは手漕ぎ、あるいは低出力でありながら、他のローボートや同程度の出力の船外機を装備したプレジャーボートよりもサバニが速度の面で勝っている大きな要因であると考えられる。
すなわちサバニは古くから南方の島々など西欧文化の入っていない地域では比較的伝統のある船型であり、人力や帆走、また動力船としても波を割り、高速な移動を可能にする船型だといえると言えるだろう。
一方で船体の幅が小さいことは一般的にローリングに対しての静安定並びに動安定が小さいことも予想され、帆走する際には、帆にかかる荷重の横向き成分によって生じるローリングモーメントをつりあわせる復元モーメントがヨットほど大きくはないため転倒の危険が危惧される。
港で実用されるサバニを観察してみると、これらの解決のため船尾付近にビルジキールを設けたり、パイプを横に抱かせたりして、ローリング角を規制したり、ローリング振動の減衰を狙っているサバニも見受けられる。
しかし新城師匠の考え方では、後に述べるアウトリガー同様、これらの問題意識やそれに対応する付加装備にはネガティブだ。
新城師匠の言葉からは、池間島で漁に出ていた当時、海人にそうした課題意識があったことはまったく感じられない。
漁業で生計をたてる海人たちは、1日の内、長い時間を洋上ですごし、舟と体は一体となっており、安定によって転倒を防止したりするよりも、常にローリングを肌で感じており自らの運用や制御で積極的にコントロールしていたのではないのだろうか。
という推論とともに、幅は狭いが不安定要素もサバニの独特な船型だけで解決できる問題で、また帆走サバニでもヨットのようにヒールさせて走るスタイルではないのかも知れない。まだまだこの船型については調査不足な面が多い。


■糸満サバニとの違い
師匠が作る池間の舟は潮を割る細い船首を特徴としている。
へさきの形状は、鋭角な楔型をしていてボトムよりも深く沈み込むことで船体よりも事前に波を割り、衝撃と抵抗を緩和しながら波をやり過ごしながら抜けてゆく効果がある。
細い船首とディープV断面で波を左右に割ると同時に駆逐艦同様、鋭利に波頭に切り込むことで、波の浮力によるピッチングモーメントを抑え、大きな抵抗を受けずに水面を切り裂くことができる。これは時化の海面を速く走るという点において理想的な形状といえる。
これについて、へさき近くの底が平らな糸満のサバニで外洋には出られないと、師匠は言う。この形では、大きな波の中ではピッチングにより海面に叩きつけられ、舟にも大きな荷重がかかる上、人も乗っていられないという。
おそらく糸満のサバニが幅広い構造を持っているのは、比較的波静かな沿岸で、漁をするためのもの。
そして一方、池間のものは、もと先祖は海賊であったとも伝えられることから、波の高い外洋での使用を考慮したためではないか?と、師匠は主張するのである。


■アウトリガー考
ローリングを防ぐには、舟そのものの復元モーメントを増すほかに、アウトリガーをつけるという方法もある。
アウトリガーは左右片舷、もしくは両舷に横棒を張り出し、その先に浮力体となる浮舟をつけたものが一般的である。
水平の状態では水面と浮舟の間には隙間があるが、船が傾いた際に水面に接し、浮力によってそれ以上のローリングを抑えるもので、いわゆる転びどめの効果がある。
艇が傾き浮舟が水面についた状態で復元モーメントを発生させるため水面についた瞬間に抵抗も増大させ、船速を低下させると同時にこの抵抗によって船首を下がった側に振るヨーイングモーメントをも発生させ、更にこのヨーイングを抑える操舵によっての抵抗増大も招く。
したがってアウトリガーは突発的な転倒を防ぐには効果があっても、水面についた状態では舟の性能を著しく低下させるものとなる。
アウトリガーの依存度、貢献度によってもその設計が異なると思われるが、水面から浮いていざというときの転倒防止の保険的役割と考えるのが基本ではないかと思う。
実際、サバニにもアウトリガーをつけたものが多く見られるが、新城師匠はこのアウトリガーには消極的だ。
元来、池間のサバニにはアウトリガーをつけたものはなかったという、荒波は対波性の優れた船型と操船で乗り切るのが基本との考え方で、サバニレースの舟を扱うようになって、はじめてその存在を知ったとも語っていた。
※注
アウトリガーの浮力体のボリュームを増大させてゆくと、やがてそれぞれが浮舟となった双胴船にたどりつく。しかし、こうなると、もはやモノハル+アウトリガーではなくカタマランという別の船型になる。細長い舟の横安定だけ考えればアウトリガーではなくサバニを二艘を並べてつなぐという方法もあるということを示している。


■センターボード
ヨットの場合にはセンターボードやバラストキールといった水中にもぐった錘があり、いわば、重心を下げて、やじろべえの原理で横安定を保つ。
ヒールすればそれだけ、アームは長くなりより大きな復元モーメントを発生させるため、ローリングに大してはきわめて安定である。
しかしサバニには、このような重心を下げることで復元力を発生させる仕掛けはない。
否、さんご礁の浅い水域で使うサバニにセンターボードやバラスとキールの設置は、そもそもナンセンスな話であろう。
ヨットよりも細く、振り子の安定もなく、逆に水面に浅く浮き重量物である人間の重心位置は舟よりも高いから不安定要素は強いはずなのだが。
すると問題はサバニは何によって横の安定を保つのだろうか。
それは操船という人の操作を除けば、船型自体のもつ安定性以外には考えられない。
断面は上に開いた形状をしている、これは傾くと、下になった舷側が多く水に浸かることでメタセンターを外側に移動させ、復元モーメントを発生させることで安定を得ていると考えられる。
速度を優先する船体は細長く、横幅がない舟を安定させるには船断面の工夫によるか、もしくは自己安定に依存せず、操船によって転覆を防ぐかになっていたかと思われる。


■木造サバニの安全性
木は素材自体が浮く。
一方、FRP船は素材事自体では、水に浮かず、閉じた領域に発泡材などの密度の小さい区画をつくり浮力体とし、浮沈構造を形成している、この浮沈構造は二重底にして底を浮力体にすることが多いので浸水した場合には船が裏返しになることが多く危険と師匠は言う。
転倒し船底を空に向けて漂っている事故映像が近代に入って多いのはそのせいだと言うが、確かに木製サバニの時代は舟自体が水に浮き沈没することはなかったことに加え、舟を横から見たときの反りであるシアーが大きく、ひっくりかえった状況では、逆に不安定となることから転倒事故は少なかった、もしくは皆無だったのではないかと思われる。
例年旧暦5月4日に行われる海人行事であるハーリー大会では、転覆ハーリーと呼ばれる種目がある。これは競漕の最中に合図に合わせて、わざとハーリー舟を転覆させ、こぎ手が協力して舟を起こし、中に入った水かき出して漕ぎ続けゴールするというものだが、転倒に備えた訓練の要素もあるだろうが、幅広い艇だったら、復帰は困難な離れ業で、サバニだからこそ可能ともいえるだろう。

Yasuhiro Arashiro Wooden Sabani Production in Shiraho Ishigaki Is. Okinawa Japan